この裁判は、大阪や奈良に住む「1型糖尿病」の
患者9人が起こしていました。
1型糖尿病は免疫の異常などで発症するとされる
病気で、血糖値を下げるインシュリンの注射が
欠かせず、多額の医療費を原告たちは障害基礎
年金で賄っていました。
ところが3年前、国が理由を説明しないまま
年金の支給を打ち切ったため、国の決定を取り
消すよう求めていました。
これに対し国は裁判の中で「認定基準の変更に
伴って支給の対象に該当しなくなった。
受給者への通知は年間700万件に上り、
個別に説明するのは困難だ」と主張していました。
11日の判決で大阪地方裁判所の三輪方大裁判長は
「障害基礎年金の受給者はそれを前提に生活を
設計していて、年金の打ち切りは生活の安定を
損なわせる重大な不利益処分だ。打ち切る場合は
どのような症状や生活状況をみて判断したのか
理由がわかるようにすべきなのに国の通知は
結論のみの簡素なもので違法だ」として原告側の
訴えを全面的に認め、年金の支給を打ち切った
国の決定を取り消しました。
1型糖尿病とは
「1型糖尿病」は血糖値を下げるインシュリンを
作るすい臓の細胞が免疫の異常などで壊れ、
体内でインシュリンが作れなくなる病気です。
厚生労働省の研究班が去年発表した調査結果では、
国内の患者数はおよそ10万人から14万人とされ、
多くが未成年で発症するということです。
患者は1日に複数回、インシュリンの注射が
必要ですが、成人の患者には医療費の助成がありません。
同じ研究班のアンケート調査では成人の患者の
3割が医療費に負担を感じ、病院の受診回数を
減らすなど、治療を控えていると回答しています。
原告「くじけたこともあった うれしい」
判決の言い渡しのあと、原告の弁護士らが大阪地方
裁判所の前で「勝訴」「理由不備により国の違法な
処分全員取り消し」と書かれた紙を示しました。
原告の1人、滝谷香さん(36)は「見捨てられたと
思うことや気持ちがくじけたこともあり、きょうの
判決を聞くまで心配でしたが、主張が認められて
うれしい」と喜びをにじませていました。
原告「はっきり説明してほしい」
原告の1人、滝谷香さん(36)は、5歳の時、
1型糖尿病と診断されました。
20歳のころから障害基礎年金が月に8万円支給
されていましたが、3年前、何の説明もないまま
突然、打ち切られました。
同じ1型糖尿病を患う夫の和之さん(36)の
障害基礎年金と収入を合わせた月25万円ほど
で生活しています。
1日4回ほどのインシュリン注射が欠かせず、
2人の医療費は1か月でおよそ5万円かかっ
ています。
滝谷さんは年金が打ち切られたあと生活費を
切り詰めましたが、使い捨ての注射針を何度も
使わなければやりくりが難しいということです。
(中略)
原告9人のうち8人は2年から16年の間、
2級と認定されていましたが、3年前の12月、
一斉に「3級に該当する」として、支給を
打ち切られました。その半年前に障害の認定
基準が変更されたことが影響したとみられています。
ただ、基準の変更は主に3級と認定するための
血液検査の項目などで、2級の基準が引き上げ
られたわけではありません。
裁判で国はこの新たな認定基準を示したうえで、
原告の診断書をもとに「3級に該当するが、
2級とは認められない」と主張していました。
一方で、過去に2級と認定していた時と比べ、
原告の症状が改善したと判断したのかどうかは
明らかにしませんでした。
また、支給を打ち切る際、詳細な説明をしな
かったことについては「支給額の変更に関する
通知業務は年間で700万件に上り、個別の
説明は困難だ」と主張していました。
(NHK NEWS WEB)